選考設計の目的についての話です。
「面接で高く評価した人が、入社後に思うように活躍していない」。お客様からこうした相談を受けることがありますが、話を聞いてみると、去年と同じ評価表と同じ面接で選考を回しているケースがほとんどです。
選考設計の目的をひとつ挙げるとすれば、合格者と不合格者の入れ替わりを未然に防ぐことです。入れ替わりがなぜ起き、どれくらい起きているのかを確かめたうえで、防ぐために何ができるのかを整理してみます。
選考設計の目的は、合否の入れ替わりを未然に防ぐこと
選考で行っていることは、応募者が入社後に活躍するかどうかの見立てです。私はこれを「入社後のパフォーマンスの予見」と呼んでいます。面接官が意識していてもいなくても、合否の判定はこの予見そのものです。
しかし、人が人を評価する以上、100%正確な評価はあり得ません。応募者の本来の能力と評価の結果には必ずずれがあり、上にずれることもあれば下にずれることもあるので、この評価の誤認から逃れられる選考はありません。
誤認が合否の境目で起きると、本来合格とすべき人が落ち、本来不合格とすべき人が通ってしまいます。これが、この記事でいう「合否の入れ替わり」です。
本来合格の人を落とすことも避けたいのですが、何より避けたいのは、本来不合格の人を合格にしてしまうことです。日本の雇用慣行では、入社後に活躍しないからといって簡単に入れ替えることはできません。入口である選考で防ぐしかないのです。
精度が下がると、入れ替わりはどれだけ起きるか
では、入れ替わりは実際にどれくらい起きているのでしょうか。RDI の選考精度シミュレーターで試算してみました。条件は、100人の応募者を通過率60%で3回選考し、22人が合格する選考で、3つの評価要素を5段階で評価して合計点で合否を決めるものとしました。
評価の精度は、選考手法の妥当性を見直した研究で構造化面接について示された値(.42)を目安に、42%としています[1]。この条件で50,000回試行した平均では、本来不合格なのに合格した人が6.5人、明らかな合格なのに不合格になった人が5.3人でした。なお、「明らかな合格」は本来の実力が合格ラインを大きく上回る人を指すため、2つの人数は一致しません。
22人の合格者のうち6.5人が、本来は不合格の人だということです。この数字を見て、どのように感じますか? 多いと見るか少ないと見るかは意見が分かれるかもしれませんが、入社後に簡単には入れ替えられないことを考えると、選考の結果としては大きな痛手だと個人的には考えています。
精度を60%に上げ、誤りの度合いを「低い」にして同じように試すと、本来不合格なのに合格した人は3.9人、明らかな合格なのに不合格になった人は3.3人に減りました。精度を100%にすることはできませんが、上げれば入れ替わりは確実に減ります。
厄介なのは、入れ替わりが起きていても、選考の時点では見えにくいことです。合否を決めた時点では、誰が入れ替わったのかは誰にもわかりません。シミュレーターでは自社の選考に近い条件を入れて試せるので、一度確かめてみてください。
入れ替わりを防ぐ2つの観点
では、入れ替わりを未然に防ぐために、何ができるでしょうか。
入社後のパフォーマンスの予見がうまくいかないとき、原因は観点① 何の能力を評価するかと、観点② 正しく評価できているかの、どちらか、あるいは両方にあります。
観点① 何の能力を評価するか
入社後の活躍に関係する能力を、評価の対象に選べているかという観点です。評価する能力を誤れば、どれだけ正確に評価しても入れ替わりは防げません。
プロサッカー選手を採用するなら、評価すべきはサッカーそのもののうまさです。歴史の知識を問うテストで高い点を取っても、試合で活躍するかどうかはわかりません。
評価する能力を正しく選ぶために決めておくことは、次の4つです。
- 求める人材像:入社後の活躍に必要な能力を、総じて言葉にしておく
- 評価要素:選考の時点で評価する能力を決めておく
- 評価基準:評価要素ごとに、評価の段階を決めておく
- 採用基準:評価の結果から、どのような応募者を合格にするかを決めておく
4つは上から順に、求める人材像から逆算して評価要素を選び、評価要素ごとに評価基準を定め、最後に合否の考え方を決める流れです。
観点② 正しく評価できているか
選んだ能力を、選考の中で正しく評価できているかという観点です。評価する能力が正しく選べていても、正しく評価できなければ予見は外れます。
プロサッカー選手であれば、サッカーのうまさは、本人の話を聞くより実際にプレーを見たほうが確かです。選考でも、面接や行動観察といった評価手法の選び方と使い方で、評価の精度が変わります。
能力を正しく評価するために決めておくことは、次の3つです。
- 評価手法:評価要素ごとに、合う評価手法を選んでおく(行動特性の多くは、面接で話を聞くより、行動観察で目の前で評価するほうが確か)
- 評価の手順:評価手法ごとに、どの評価要素をどのような手順で評価するかを決めておく
- 評価者:評価者がその手順どおりに評価できるようにしておく
面接だけに頼らず、評価要素ごとに評価できる場を選ぶことが、正しく評価するための出発点になります。
面接官を鍛えるだけでは、入れ替わりは防げない
「評価がずれるなら、面接官トレーニングをすればよいのでは」と思われるかもしれません。面接官トレーニングは大切で、最終的には実施することが望ましいと私も考えています。
しかし、設計が無いまま面接官を鍛えても、評価はそろいません。何の能力を、どの手順で評価するのかが決まっていなければ、面接官はそれぞれの経験と感覚で評価するしかないからです。その結果、多くの面接官は「話がわかりやすいか」に引っ張られて合否を決めることになります。
面接官同士の評価のぶれも、たまたま起きているのではなく、設計が欠けていることから起きている場合がほとんどです。誤解を恐れずに言えば、ぶれを抑えることより先に、評価の精度を上げることを考えるべきです。面接官トレーニングは、設計した内容を面接官に伝える場として位置づけて、はじめて効果を発揮します。
設計があれば、入れ替わりを毎年減らしていける
選考を設計すると、少なくとも次の3つが変わります。
評価の精度が上がる
経験や勘ではなく、基準と根拠に基づいて評価するようになります。また、何の能力を、どの評価手法で、どの段階で評価するかが決まっているので、誤認が減り、入れ替わりも減ります。
担当者が替わっても質を保てる
採用担当者や採用課長には異動がつきものですが、設計の意図が残っていれば、担当が替わっても同じ質の選考を続けられます。引き継ぎのたびに選考の質が揺れないことは、企業としての強さにつながります。
根拠をもって見直せる
選考時の評価と入社後の活躍を突き合わせる追跡調査は、設計があるからこそ可能です。どこで入れ替わりが起きていたのかを確かめ、効いていなかった評価要素を外したり、足りない要素を加えたりできます。前年踏襲とは違い、変えるときにも、変えないときにも根拠があります。
前年踏襲から抜け出す
入れ替わりをゼロにすることはできませんが、未然に減らすことはできます。その出発点が、去年と同じ選考を回すのをやめて、選考を設計することです。
見直すときは、次の順番で進めてみてください。
- 自社が何の能力を評価したいのかを、評価要素として言葉にする
- 評価要素ごとに、どの選考の、どの評価手法で評価するかを決める
- 決めた内容を、面接官トレーニングで面接官に伝える
選考設計クラウド「SPADE」(公開準備中)
SPADE は、選考の設計を自社の手で進めるための選考設計クラウドです。
評価する能力(求める人材像・評価要素)、選考全体の設計(選考プロセス・マッピング・評価基準・総合評価)、各選考の詳細設計、面接官トレーニングの順に決めていくと、選考の設計が組み上がります。この記事で取り上げた2つの観点を、一つずつ形にしていくことができます。詳しくは、SPADE のご案内をご覧ください。
参考文献
- Sackett, P. R., Zhang, C., Berry, C. M., & Lievens, F.(2022).Revisiting meta-analytic estimates of validity in personnel selection: Addressing systematic overcorrection for restriction of range.Journal of Applied Psychology, 107(11), 2040–2068. ↩



