組織市民行動の話です。
ここ1〜2年、人事向けのメディアで「組織市民行動」という言葉を目にする機会が増えてきました。ジョブ型雇用やリモートワークが広がり、一人ひとりの役割が細かく分かれていくなかで、役割と役割のすき間を埋める行動として、あらためて注目されているという解説が多く見られます[1]。生産性の向上や離職の低下につながるとされ、人事評価に取り入れる案や、採用の場面でも重視してはどうかという研究者の提案も出てきています[2]。
組織のパフォーマンスに直結する行動なのであれば、選考の評価要素にも含めたい、と考えるのは自然な流れだと思います。実際、選考の設計をお手伝いしていると、お客様の求める人材像に「周囲を助ける」「チームに貢献する」といった言葉が入っているケースがあります。
では、その「周りを助けられるか」は、選考で評価できるのでしょうか? ここでは、組織市民行動とは何かを紐解いたうえで、選考で扱うにはどうすればよいのかを考えていきます。
組織市民行動とは
組織市民行動は、1980年代に組織行動の研究者であるデニス・オーガンらが提唱した概念で、英語では Organizational Citizenship Behavior といい、頭文字から OCB と呼ばれることもあります[3]。
困っている同僚の仕事を手伝う、急な予定変更にも不満を言わずに対応する、職場の改善に自分から関わる、といった行動がこれにあたります。研究では、同僚など人に向かうものと、組織そのものに向かうもの(ルールを守る、組織のために動くなど)の2つに分けて扱うことも多くあります[4]。
組織の成果との関係
組織市民行動が成果に効くことは、多くの研究で確かめられています。168のサンプル、約5万1千人を統合したメタ分析では、組織市民行動は上司による業績評価や報酬の決定、離職や欠勤と関係していました。部署やチームの単位で見ると、生産性や効率、コスト、顧客満足、離職とも関係していたと報告されています[5]。
しかも、時間を追って調べた研究のほうが関係が強く出ていたことから、組織市民行動が成果を生んでいる可能性も示されています。周りを良くする人がいるチームは強い、という現場の感覚は、研究の面からも裏づけられていると言ってよいと思います。
もちろん、多ければ多いほどよいというわけではありません。自分から追加の役割を引き受ける行動が多い人ほど、役割の負担やストレス、仕事と家庭の葛藤が大きくなるという研究もあります[6](周りを良くする人に負担が集まりすぎないようにするのは、入社後のマネジメントの領域です)。
選考でそのまま見極めにくい理由
ところが、選考で「組織市民行動ができる人か」を見極めようとすると、これがかなり難しいというのが私の持論です。理由は大きく3つあります。
まず、組織市民行動は人の特性ではなく、入社後の活躍の中身だということです。研究では、活躍は担当業務の遂行、組織市民行動、問題行動を起こさないこと、変化への適応などに分かれ、それぞれに効く要因が違うと整理されています[7]。組織市民行動は「入社後にどう働くか」の側にあり、選考の時点で持っている能力そのものではありません。
次に、中身が幅広く、1つの物差しでは評価できないことです。困っている同僚を手伝うことも、見られていなくてもルールを守ることも、自分から学び続けることも、すべて組織市民行動に含まれますが、行動としてはまったくの別物です。「組織市民行動」という1つの評価要素にまとめてしまうと、面接官によって思い浮かべる行動が違い、結局何を評価したのかがわからなくなってしまいます。
さらに、面接ではよく見せやすいという問題もあります。「周りを助けた」という話は誰でも語れますし、社会的にも望ましい答えです。組織市民行動は、周りからよく見られたいという動機からも生まれうることが指摘されており[8]、話の内容だけで判断しようとすると、結局は話のうまい人を選ぶことになりかねません。
7つに分解して評価する
ですので、評価したいのであれば、組織市民行動をそのまま扱うのではなく、観察できる行動に分解していくことになります。研究では、組織市民行動は援助行動、スポーツマンシップ、組織への忠誠、ルールの順守、自発的な取り組み、市民としての美徳、自己開発の7つのまとまりに整理されています[9]。
このうちスポーツマンシップは言葉だけではわかりにくいのですが、避けられない不便や負担を不満を言わずに受け止め、自分の提案が通らなくても気分を害さずに前向きでいる、といった行動を指します。7つそれぞれを、評価要素にするならどうなるかを並べたのが次の表です(右の列は、後で触れる SPADE の標準要素です)。
| どういう行動か | 評価要素にするなら(SPADE の標準要素) | |
|---|---|---|
| 援助行動 | 仕事で困っている人を、自分から手伝う。問題を未然に防ぐ気づかいや、もめごとの仲裁、励ましも含む | 共感・受容/調整力/当事者意識 |
| スポーツマンシップ | 避けられない不便や負担を、不満を言わずに受け止める。提案が通らなくても前向きでいる | レジリエンス/素直さ/謙虚さ |
| 組織への忠誠 | 組織を外に向けて守り、厳しい状況でも組織にとどまる | 対応する要素なし |
| ルールの順守 | 見られていなくても、組織のルールや手順を守る | 誠実さ |
| 自発的な取り組み | 求められる以上に工夫し、自分から追加の役割を引き受ける | 主体性/当事者意識 |
| 市民としての美徳 | 組織の運営に関心を持ち、参加し、組織のためになることに目を配る | 当事者意識 |
| 自己開発 | 自分から知識や技能を高める | 学び続ける力 |
こうして分解してみると、援助行動やスポーツマンシップのように、1つの要素ではなく複数の要素に分かれて受けるものがあることがわかります。また、組織への忠誠は、入社前の応募者にはまだ守る組織がないので、選考では評価のしようがありません。
確かめ方としては、行動観察が向いています。グループワークであれば、周りの状況に気づいて手を貸すか、自分の案が採用されなかったときにどうふるまうかを、目の前で評価できます。
面接で確かめる場合も、組織市民行動を狙って設計した構造化面接は、ごまかそうとしても点数が上がりにくく、同僚が評価した組織市民行動を予測したという研究があります[10]。性格を問う構造化面接の評価が、上司の評価したルールの順守や援助、自発性を予測したという報告もあります[11]。
「周りを助けられる人」を言葉にする
組織市民行動は組織の成果に効く大切な行動ですが、そのまま評価要素にしようとすると、評価の中身がぼやけてしまいます。分解して、観察できる行動として評価要素に置き換えることで、はじめて選考で扱えるようになります。
自社の求める人材像にある「周りを助けられる人」は、7つのうちどれのことを指しているでしょうか? 援助行動なのか、自発的な取り組みなのか、それともスポーツマンシップなのかによって、評価すべき要素も、確かめる場面も変わってきます。
SPADE ではどうしているか(公開準備中)
選考設計クラウド「SPADE」の標準要素には、組織市民行動を1つの評価要素としては入れていません。理由は、組織市民行動が人の特性ではなく、入社後の活躍の中身の1つだからです。
活躍の中身は、会社によって配分が違います。担当業務の成果を最も重く見る会社もあれば、チームへの貢献を重く見る会社もあるので、「組織市民行動」という要素を1つ足すよりも、自社が活躍をどう定義するかを先に決め、それに合わせて評価要素を選ぶのが筋だと考えています。SPADE でも、評価要素を追加する入口で、まず活躍の定義から決めるように案内しています。
そのうえで、組織市民行動のそれぞれのまとまりは、表1のとおり、主体性・当事者意識・共感・受容・調整力・レジリエンス・素直さ・学び続ける力といった標準要素で受けられるようにしています。ルールの順守や、提案が通らないときの謙虚さの下限は、段階で評価するのではなく、不合格条件の誠実さ・謙虚さで確かめます。詳しくは、SPADE のご案内をご覧ください。
参考文献
- 例として、HRMOSトレンド(ビズリーチ・2024年12月20日)、第一生命経済研究所(2025年5月15日)、マイナビ キャリアリサーチLab(2025年10月28日)の解説記事。日本能率協会のコラム(2023年10月16日・2025年11月10日更新)は、ジョブ型雇用やリモートワークを背景に「再評価されている」とする. ↩
- マイナビ キャリアリサーチLab(2025年11月20日).田中堅一郎氏(日本大学大学院)へのインタビュー記事.新卒採用で組織市民行動を大切にしていると示すことや、適性検査で誠実性を測ることを提案している(ご本人は採用は専門外と断ったうえでの提案). ↩
- Organ, D. W.(1988).Organizational citizenship behavior: The good soldier syndrome.Lexington Books. ↩
- Williams, L. J., & Anderson, S. E.(1991).Job satisfaction and organizational commitment as predictors of organizational citizenship and in-role behaviors.Journal of Management, 17(3), 601–617. ↩
- Podsakoff, N. P., Whiting, S. W., Podsakoff, P. M., & Blume, B. D.(2009).Individual- and organizational-level consequences of organizational citizenship behaviors: A meta-analysis.Journal of Applied Psychology, 94(1), 122–141. ↩
- Bolino, M. C., & Turnley, W. H.(2005).The personal costs of citizenship behavior: The relationship between individual initiative and role overload, job stress, and work-family conflict.Journal of Applied Psychology, 90(4), 740–748. ↩
- Campbell, J. P., & Wiernik, B. M.(2015).The modeling and assessment of work performance.Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 2, 47–74. ↩
- Bolino, M. C.(1999).Citizenship and impression management: Good soldiers or good actors?.Academy of Management Review, 24(1), 82–98. ↩
- Podsakoff, P. M., MacKenzie, S. B., Paine, J. B., & Bachrach, D. G.(2000).Organizational citizenship behaviors: A critical review of the theoretical and empirical literature and suggestions for future research.Journal of Management, 26(3), 513–563. ↩
- Allen, T. D., Facteau, J. D., & Facteau, C. L.(2004).Structured interviewing for OCB: Construct validity, faking, and the effects of question type.Human Performance, 17(1), 1–24. ↩
- Heimann, A. L., Ingold, P. V., Debus, M. E., & Kleinmann, M.(2021).Who will go the extra mile? Selecting organizational citizens with a personality-based structured job interview.Journal of Business and Psychology, 36(6), 985–1007. ↩



