選考の評価を、体操競技の採点から考える話です。

選考の評価をすり合わせていると、面接官が評価の根拠に挙げるのは、最後までやり切ったか、自ら動いたか、周りを巻き込んだかといった「何をしたか」がほとんどです。それがどのような場での行動だったのかは、評価の観点に入っていないことが多くあります。

パフォーマンスの評価は、発揮した行動の質だけでなく、その行動が発揮された場の難しさとのかけ合わせで行うべきだというのが私の持論です。この場の難しさを、私は「場の難易度」と呼んでいます。

体操競技は、難しさと出来栄えを分けて採点する

体操競技の得点は、DスコアとEスコアの2つでできています[1]。Dスコア(Difficulty)は演技の難しさを表す点で、技ごとに難しさに応じた価値点が決められており、演技に組み込んだ技の価値点などを足し合わせて決まります。Eスコア(Execution)は実施の出来栄えを表す点で、10点から姿勢の乱れや着地の乱れなどを減点して決まります。

しかも、Dスコアを見る審判とEスコアを見る審判は別々に置かれています。難しさと出来栄えを同じ人がまとめて見るのではなく、分けて採点してから足し合わせるしくみです。かつての体操競技は10点満点で採点されていましたが、2006年から、難しさの点に上限を設けない今の方式に変わりました。

この方式では、易しい技だけで組んだ演技を完璧にこなすよりも、難しい技に挑んで着地で少し乱れた演技のほうが高い得点になることがあります。易しい技を一度もぐらつかずに並べた選手と、最高難度の技に挑んで着地で一歩動いた選手がいたら、どちらが優れた体操選手だと思いますか?

多くの人は後者だと答えると思いますし、この採点に違和感を持つ人は少ないはずです。ところが、仕事のパフォーマンスの評価、つまり選考の評価になると、多くの現場ではEスコアだけで採点しています。

場の難易度とは

選考の評価を体操競技の採点に重ねると、2つの軸が見えてきます。ひとつは、その場でどのような行動をとり、どこまでやり遂げたかで、Eスコアにあたります。この記事ではこれを「発揮の質」と呼びます。もうひとつが、Dスコアにあたる、その行動が発揮された場の難しさです。

発揮の質と場の難易度は別々のもので、易しい場で質の高い行動をとることもあれば、難しい場で質はそこそこの行動をとることもあります。どちらか一方だけを見ていると、能力の程度を読み違えます。

体操競技 別々の審判が採点して足し合わせる Dスコア 技の難しさ(Difficulty) + Eスコア 実施の出来栄え(Execution) 得点 選考の評価 2つの軸をかけ合わせて評価する 場の難易度 どのような場だったか × 発揮の質 何をし、どこまでやり遂げたか 能力の評価
図1 体操競技の得点と、選考の評価の考え方

同じ行動でも、場が違えば評価は変わる

中途採用の面接で、応募者が話した過去のエピソードを2つ並べてみます。1つ目は「同じチームの後輩に向けて、段取りを決め、自ら会議を仕切った」というものです。2つ目は「他部署や取引先を含む、利害の異なる関係者に向けて、段取りを決め、自ら会議を仕切った」というものです。

どちらも行動そのものは同じ「段取りを決め、自ら会議を仕切った」なので、発揮の質だけを見れば2つは同じ評価になります。ところが場の難易度を見ると、2つ目のほうがはるかに難しい場です。立場の違う相手の利害を調整しながら会議を前に進めるのは、気心の知れた後輩を相手にするのとは別の難しさがあります。

逆の場合もあります。難しい場で、質はそこそこの行動をとった人と、易しい場で、質の高い行動をとった人です。発揮の質だけで比べると後者が上に見えますが、入社後の仕事に近いのは前者の場かもしれません。体操で言えば、難しい技に挑んで小さく乱れた演技を、易しい演技より低く採点してしまうことにあたります。

なぜ場の難易度まで見るのか

選考の評価は、入社後のパフォーマンスの予見のために行います。そして入社後の仕事は、多くの場合、立場や利害の違う人と関わり、先が見通せないなかで成果を求められる、一定以上の難しさのある場で行われます。

易しい場で発揮できた行動は、難しい場でも同じように発揮できるとは限りません。後輩相手の会議を上手に仕切れる人が、利害の対立する会議でも同じように仕切れるかは、その場面を見てみないとわかりません。ですので、易しい場での発揮の質がどれだけ高くても、それだけでは入社後の発揮を見立てる根拠としては弱くなります。

このことは、入社後の人事評価では当たり前のように扱われています。等級が上がるほど任される仕事の難しさが上がり、同じ「やり切った」でも、どの難しさの仕事でやり切ったかで評価は変わります。選考の評価だけが、場の難易度を見ずに行われているのは不自然だと思います。

場の難易度を判断する観点

では、場の難易度はどのように判断すればよいでしょうか。

最初に断っておくと、場の難易度は一概に分類できるものではなく、評価基準の段階のようにきれいに段に分けて定義することは難しいものです。そのため、判断するときの観点を持っておき、同じ発揮の質の行動が並んだときに、どちらをより高く評価するかを考えるために使います。観点の例を表にまとめます。

表1 場の難易度を判断するときの観点(例)
判断するときの観点
難しい利害の異なる立場の人が多く関わる/立場や背景の違う相手との調整が必要/先が読みにくく、正解が一つに決まらない/前例がなく、進め方から考える必要がある/広い範囲で競われる、あるいは高い水準が求められる
普通関わる人の立場や背景がある程度そろっている/利害の関わる相手はそこまで多くない/調べれば筋道が見つかり、解き方が複数ある/限られた範囲・規模での取り組み
易しい気心の知れた少人数だけで完結する/利害が対立する相手がいない/同じことの繰り返しで、因果が誰の目にも明らか/前例をなぞれば進められる

当てはまる観点の数で機械的に決めるのではなく、全体を見て判断します(小さな集まりでの出来事でも、難易度が高いことはあります)。また、同じ場でも、その人が担った役割によって難易度は変わります。「どのような場だったか」だけでなく、「その中で何を任されていたか」まで確かめてから判断します。

表の「先が読みにくく、正解が一つに決まらない」といった観点は、カネヴィン・フレームワークを参考にしています[2]。手順どおりに進めれば片づく状況から、やってみるまで結果がわからない状況まで、状況の難しさを4つに分けて考える枠組みです。能力の段階を示した文献は多いのですが、場の難易度の段階を示した文献はあまり見かけません。状況の難しさを段に分けて考えるための、数少ない手がかりです。

場の難易度は、評価基準とは別に評価する

選考を設計している企業であれば、評価要素ごとに評価基準を用意していると思います。ところが、その評価基準に書かれているのはほとんどの場合、発揮の質だけです。場の難易度に相当する表現は、評価基準にも、選考のほかのどこにも見当たりません。

この状態で、面接官が評価基準に忠実に評価しようとすればするほど、場の難易度は評価から抜け落ちます。面接官の落ち度ではありません。場の難易度を評価する場所が、用意されていないのです。

場の難易度を評価に入れる方法のひとつは、評価基準の文そのものに書き込むことです。私が以前在籍していた日本アイ・ビー・エムでは、当時の能力(コンピテンシー)ごとのレベル判定基準に、発揮する場の難しさが書かれていました。レベルが上がるほど「〇〇規模のプロジェクトにおいて」のような場の条件が加わり、高い能力は難しい場で発揮して初めて認められる、という考え方が基準の文に表れていました。

ただ、選考の評価基準では、私はこの書き方をおすすめしていません。場の難易度は評価基準に組み込まず、評価基準とは別に評価するというのが、私が選考を設計するときの考え方です。体操競技でDスコアとEスコアを別々の審判が採点するように、評価基準では発揮の質を評価し、場の難易度はそれとは別に判断して、2つを合わせて評価を決めます。

分けるのは、発揮の質と場の難易度が別々に動くものだからです。2つを1つの基準の文に書き込むと、質は高いけれど場は易しい、という行動がどのレベルにも当てはまらなくなります。また、場の難易度はきれいに段に分けられるものではないので、レベルごとの文に固定するとかえって判断の幅が狭くなります。分けておけば、表1のような観点をすべての評価要素に共通で使うこともできます。

自社の選考で、場の難易度がどこかで評価されているかを確かめてみてください。評価基準にも、それ以外のところにも見当たらなければ、その選考はEスコアだけで採点している状態です。

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参考文献

  1. 国際体操連盟(FIG).採点規則(Code of Points)2025–2028. ↩
  2. Snowden, D. J., & Boone, M. E.(2007).A leader's framework for decision making. Harvard Business Review, 85(11), 68–76. ↩