タレントマネジメントから見た採用活動
タレントマネジメントから見た採用活動
その構図が見えた時、採用設計の質が向上する
「タレントマネジメント」は、決して新しい言葉ではありませんが、タレントマネジメントと採用活動の適切な接続という意味では、まだまだ広く浸透していないように感じています。
そもそも私自身、ずばりタレントマネジメントとは何かと問われたら、回答に少し躊躇してしまうのも事実です。
しかしながら、タレントマネジメントと採用活動の関係性を適切に理解していることは、自社の人材採用活動、育成活動において非常に大切であり、数年後の企業力に直接大きな影響を与える観点だといえると思います。
まず、タレントマネジメントの概念をおさらいしておきましょう。
「タレントマネジメント」という言葉を生み出した、アメリカ人材マネジメント協会(SHRM:シャーム)の定義は以下のようなものです。
長いですよね。
何というか、ラーメンの「全部載せ」のように、人事の役割をすべて説明しているように聞こえてしまいます。
そこで他にもタレントマネジメントの説明をネットで探してみました。
いかがでしょうか。これらの定義を眺めていると、タレントマネジメントとはどうやら、社員の能力・資質・才能・スキル・知識・経験といったものを把握し、統合的、一元的に管理して、自社の戦略に生かす試みなのだということが分かっていただけると思います。
グローバルスタンダードとは異なる日本
では、タレントマネジメントと採用活動の関係性とはどのようなものでしょうか。
冒頭、「タレントマネジメントの観点から採用活動を再設計する」と記した際に、読者のみなさんの中には、「なんだか具体性に欠ける問いかけだな」と感じられた方がいるかもしれません。
そもそもタレントマネジメントという概念の中に採用活動は含まれているはずなのですが、実のところタレントマネジメントの一環として採用活動を設計するという意識は日本企業には非常に希薄です。
その理由は、日本企業では採用活動が全体の仕組み(タレントマネジメント)から独立的で、後工程とは断絶したプロセスになっているからです。
その意味で、もう数十年の間、日本はグローバルスタンダードとかけ離れたやり方で採用活動を行ってきました。
それは一括採用というスタイルで世界的に高い就職率につながっていますし、一度にたくさんの応募者を相対評価できるというメリットも生んでいます。
ただ、独立的でイベント性が強いために、採用活動のタレントマネジメントにおける役割に気づいていない、気づきづらいことは大きな問題です。
その役割とは、採用活動は、社員の能力・資質・才能・スキル・知識・経験といった情報を統合的、一元的に管理していく際の、最初の情報入力の機会であるということです。
にもかかわらず、その情報を適切に生成していない、しなくても許されてしまっているということが大きな問題だといえます。
この日本スタイルが生み出しているネガティブな常識が改善されないと、日本企業はグローバルな人材育成の潮流から、どんどん離されていくことになります。
タレントマネジメントとは能力の可視化である
タレントマネジメントの要諦とは何かというと、それは自社の人材が持つ能力の可視化に他なりません。
なぜならその情報こそが、採用、育成、配置、選抜、任命など、すべての人材戦略に一貫して必要なものだからです。
このとき、情報を管理するイメージは、図のようなものです。
一人ひとりの社員の成長を、システム上で時系列に記録、可視化するのです。
※本来社員の能力の値を示すところを、便宜的に身長として例示しています。
ちなみに、表では「身長」「評価」「順位」の3項目を管理しています。
この中で、個人の成長を最も端的に表現しているのは「身長」です。身長は絶対評価ですが、評価(人事評価と言ってもいいでしょう)や順位は一般的にそうではないからです。
これはとても重要なポイントで、身長のように能力を測れる絶対的な(相対的ではない)基準を設けることが、人材の成長を管理可能にします。
相対評価の結果では、本人の成長が正しく目に見えない可能性が高いからです。
特に、「人事評価」が必ずしもタレントマネジメントに合理的な情報ではないことに、注目しなくてはいけません。
これはRDIが日産自動車株式会社のタレントアセスメントプログラムを請け負った際にも、とても重要なテーマでした。
(※当時例については、労政時報2018年3月9日号に特集されています。)
こうして、絶対評価を目指し、人材がどのように成長したかという記録を蓄積していけば、自社の人材採用~育成戦略を検討する上で、貴重な社内データになるわけです。
求める人材像・採用基準とタレントマネジメント
さて、採用活動に話を戻すと、採用活動は最初の「身長」の測定に該当します。
そして、ここで「身長」と表現しているものは、求める人材像として表現される複数の能力のことであり、採用のときだけに使われるものではなく、入社後も測定され続けるものでなくてはなりません。
採用活動と育成活動を適切に接続し、タレントマネジメントを実現しようとしている企業は今、まさにこのような設計に耐えうる能力の設定と評価基準の構築にとりかかっています。それが、「タレントマネジメントの観点から採用活動を再設計したい」という相談の正体です。
「求める人材像は整っていますか?」
「面接のときに用いる評価基準はどうですか?」
そうした問いかけに、どれほどの高さの視点から答えようとするかで、人材採用力、人材育成力に差が生じていきます。
こうした設計力の向上に注力することこそ、自社の採用力を高めることにつながっています。そうしてひとつずつ、正しさを手に入れていくことが大切です。