経験学習面接とは

経験学習面接とは

入社後の成長(育成)が前提となる新卒採用において、成長力の高い人材を獲得する重要性については疑いの余地がないでしょう。

 

では、自社に入社した人材がどのように学び、成長していくか考えてみましょう。

 

もちろん、研修のように知識を受動的に学び、それを現場で実践するということもあると思いますが、私たち社会人の学びにおいては、圧倒的に日常の仕事を通じて学びを得ることが多いと思います。

 

その時に大事なことは何でしょうか。

仕事を通じて学びを得るとは、もう少し易しくいい換えると、「行動した後に、振り返って気づきを得ること」といえます。

 

そのような行為が日常的に身についている人材は、一つの経験から得た学びで次の行動の質を高め、何かに失敗してもそこから学びを得て同じ過ちを繰り返さない人材だといえます。

そして周囲からすべてを教えてもらわなくても、能動的に成長してくことが期待されます。

 

変化の速い時代において、教科書的に教えられることが瞬時に陳腐化していく中、経験学習の力は、成長のためにとても重要な能力だといえます。

 

では、新卒の面接場面において、どのように経験学習力を見極めていけばよいでしょうか。

 

経験学習力を見極める面接を、筆者は「経験学習面接」と呼んでいます。

そして、経験学習面接では、経験学習力の高い人材を 「学生時代に経験学習サイクルを体現している人材」 と定義しています。

 

まず、先述したデービッド・コルブが提唱した「経験学習モデル」を見てみましょう。

 

コルブは、経験の連鎖から自己成長を遂げるには上記のようなサイクルを回すことが大切だとしています。

 

まずは具体的な「経験」をした後、じっくりと「省察」する(振り返る)ことが大事だとしています。「概念化」というのは、今回の経験が他の経験にも生かせるように、抽象的・一般的な言葉で理解しなおすことです。それを新たに「実践」するわけですが、新しいことを試みる勇気・決断も求められるとコルブは述べています。

 

このモデルを、学生の生活場面に当てはめると、以下のようになります。

 

 

経験学習面接では、応募者から上図のような、学生生活において実践した経験学習サイクルに相応する、連鎖的なエピソードを聞き出し、応募者の「経験から学ぶ力」を評価することになります。

経験学習面接の具体的な進め方

経験学習面接では、まず応募者に学生生活における取り組みを話してもらいます。

面接官はその取り組みに対し、取り組みの背景や、周囲の人との関係性について質問を行います。出だしは、標準的なコンピテンシー面接と同様です。

 

取り組みは、できれば応募者にとって初めてのことや、挑戦的なことのほうが、その後の質問がスムーズに行えます。

 

挑戦的な取り組みをやり遂げるためにどのような問題意識を持ち、実際に自分に足りなかったことをどのように補完したのかといったことを聞いた後、その経験で学んだ事や今後の教訓としたことなどについて聞きます。

 

そして次にその経験が生かされた別の取り組みの(もしくは同じ取り組みの別の場面)の話を聞いていきます。

 

図にすると、以下のようになります。

 

経験学習面接では、ある一つの行動場面だけでなく、その経験から得た気づきを新たに別の経験に生かした話を聞くことが前提になります。

 

そのように2つ以上のエピソードの連鎖を話すことに慣れていない(心の準備ができていない)応募者がいるかもしれませんが、採用学生のターゲットレベルが高い場合には、ほぼ問題にならないと思います(対応できない応募者は不合格候補になると思います)。

 

もしも、自社の採用学生のターゲットレベルに対して、難易度が高すぎると感じる場合には、敢えて、入学年次の取り組みを質問することから始めて、それを二年次、三年次にどのように生かしているか、といった質問の進め方にするとよいでしょう。

 

ちなみに、こうした質問方法は、文部科学省や大学が力を入れている、学生生活におけるポートフォリオ(取り組みの記録)を生かす面接方法としても合っているといえます。

経験学習面接の注意点

では最後に、経験学習面接とコンピテンシー面接との違いおよび注意点についてお話しします。

 

まずコンピテンシー面接との違いですが、コンピテンシー面接では、応募者の行動事実そのものに主眼が置かれるのに対し、経験学習面接では、行動(経験)から得た気づきが、その後の行動にどう生かされているかに主眼が置かれます。

 

それゆえ、コンピテンシー面接が「事実情報の取材」のようであるのに対し、経験学習面接では応募者の「考え方や思いを、共感を示しながら聞く」進め方になります。

 

注意点は、コンピテンシー面接よりも評価が俗人的になりやすいことです。応募者の思いや考えに対する評価基準の言語化が難しいので、面接官の判断による部分が大きくなります。

 

私のお薦めは、選考の比較的早いプロセスでコンピテンシー面接を実施し、その後の工程で上位ポジションの面接官が経験学習面接を行うというものです。

 

コンピテンシー面接は、その進め方においてある程度ルールを順守することが求められることから、上位ポジションの社員が行う面接としては窮屈な時があります。

 

逆に経験学習面接は、面接官個人の判断のウェイトが増すので、経験学習のサイクルを回した経験を、面接官自身が豊富に持っているほうが適切です。

 

一次面接と二次面接、もしくは二次面接と最終面接といったように、使い分けを行うことがよいと思います。