性格で人を採用することの是非

性格で人を採用することの是非

性格がよいとは?

 

「性格がよい(性格面で優れている)」とは何かを理解するために、そもそも「性格とは何か」について説明したいと思います。

 

「性格」は、過去から様々な科学者により研究結果が報告されていますが、それらの中でもっともメジャーな評価を得ているのは「ビッグファイブ」でしょう。

 

「ビッグファイブ」とは、ゴールドバーグ,L.R.が提唱した性格の特性論(一方で性格には類型論があります)で、人間が持つさまざまな性格は、5つの要素の組み合わせで構成されるとするものです。

 

「特性5因子論」とも呼ばれ、その5つの因子とは、「外向性」「神経質傾向」「誠実性」「協調性」「開放性」です。

 

これらの5つの特性が良好に行動として表出した時には、それぞれ「外向性」は積極的、「神経質傾向」は細やかな配慮ができ、「誠実性」は目的合理性や自制を高め、「協調性」は親和的、「開放性」は独創性がある状態ということになります。

 

ちなみに「調和性は」EQと比例すると考えられています。

 

ビッグファイブ因子 特徴 良好な表出
外向性 ポジティブな情動に対する反応 積極的
神経質傾向 ネガティブな情動に対する反応 細やかな配慮
誠実性 内に持っている基準やプランへの固執 目的合理・自制
調和性 *EQと比例 他者に共感し行動へ反映 親和的
解放性 連想的・拡散的な思考 独創性

 

 

脳の基礎メカニズムとしては、「外向性」は中脳報酬系、「神経質傾向」は大脳辺縁系や扁桃が関与しており、これらはどちらも脳の中心部にあるもので、いうならば脳の進化において古くから存在している部位にあたります。

 

これは、「外向性」が「報酬を得るために行動する」つまり、太古においては食料を得るといったような行為をリードし、「神経質傾向」が「リスク(敵)に備える」といったような行為をリードしていたことを想起させます。

 

「誠実性」は、背外側前頭前野(はいがいそくぜんとうぜんや)というところが関連していますが、これは脳の部位では新しく発達したところだといわれています。

「誠実性」は、計画的に(自制して)行動するといったことに関係するといわれていますが、人間が野性的な食や敵のリスクから解放されたことで、こうした特性が存在感を増したと考えられています。

 

「調和性」は、脳の基礎メカニズムより心の理論、「解放性」は思考の傾向として説明され、どちらも人間の進化として、より新しい発達領域として考えられています。

 

 

採用活動と性格

 

採用活動は、これら5つの特性が良好に表出しない時のことも想定して考えることになります。

特に採用担当者として気になるのはやはり「神経質傾向」だと思います。

 

性格(パーソナリティ)を基にしたテストを実施し、この「神経質傾向」に該当すると思われる項目が高く出た場合には、採用を控えるといった判断をしている企業も少なくないと思います。

 

ネガティブな情動に対し過敏な反応をする特徴が見られるということであり、それが鬱などを誘引しやすいと考えられるため、「性格がよい(性格面で優れている)」に該当しない、という判断をしているのだと思います。

 

 

その他の特性についてはどうでしょうか。

実のところ、その他の「外向性」「誠実性」「協調性」「開放性」においても、高すぎれば(低すぎても)問題が生じることがわかっています。

 

「外向性」が高過ぎると、深慮のない無謀な行動が増え、「誠実性」が高過ぎるとワーカホリックになりやすく、過度な完璧主義にもつながります。

「協調性」でさえ高過ぎれば集団埋没や他者依存になり、「開放性」では異端的な信念傾向を示します。

 

 

つまり採用の観点では、どの因子についても、「極めて平均から外れ値にあるような場合を確認する」ことが求められると思います。

ただし、外れ値ではない結果グループにおいて、どの結果がよい(優れている)という基準は持ちづらいといえると思います。

 

 

これらのことから、私の意見は、性格テストの利用は少数を落とすネガティブチェックとして利用するのが妥当で、5つの性格特性の表出の仕方について「自社の求める人材像と合っているかどうか」が見るべきポイントである、というものです。

 

ネガティブチェックに限定し、厳しく絞り込むことには向いていないと考えることには、もうひとつ理由があります。

性格テストの結果をもって、将来を正しく予見するのは極めて難しいのではないかと思うからです。

 

 

例として、性格テストにおける「神経質傾向」と、将来の問題発生(鬱などメンタル不全の発生)を考えてみましょう。

 

ある個人のストレス反応が出てしまうまでには、いくつもの個人的、社会的要因が「ストレス調整要因」として機能しており、性格要因である「神経質傾向」はそれらの内の一つに過ぎないことがわかっています。

 

「神経質傾向」をコップに例えてみると、そのキャパの大きさはある程度テストで測れるかもしれません。

ただし、そのコップから水(ストレス)があふれ出してしまうかどうかは、それ以外にもたくさんの個人的、社会的要因が関係するということです。

 

この話は、他の性格特性についても共通です。

性格テストは、選考の初期に行われることが多いので、「コップのキャパ=活躍できる」という確証がない限り、そこで大きく絞り込んでしまうと、優秀人材を初期に大量に落としてしまうことにもつながりかねません。

 

 

性格で評価は可能か?

 

では結局、「性格」はテストでネガティブチェックをする以外に、採用活動の評価には使えないのでしょうか?

 

そのことを考える際に参考になるのが、「性格は変わるのか?」という議論です。

もちろん研究者の間でいろいろな意見があるのですが、私が面白いと感じている科学者の考え方を紹介します。

 

その考え方に拠ると、「外向性」や「神経質傾向」が、脳の基礎メカニズムと相関していることからもわかるように、そもそも性格は、50パーセント程度は遺伝により決定されると思われています。

 

そしてこれらはほとんど変えることのできない要因だといわれています。

 

ただし、残りの50パーセントは後天的な要因により形成されるといわれています。その要因の一つは、生まれてからの個人の生活環境だといわれています。

個人の生活の歴史における、大小の選択の機会にどのような選択をしたか(せざるを得なかったか)ということが、本人の価値観を醸成すると共に、性格に影響してくるというものです。

 

もう一つは、自分の選択行動に対し、意味づけができるようになることが性格に影響してくるというものです。

私の例でいうならば、「自分は外向性が高くないのだけれども、仕事に必要だから外向性が高いように行動しなくてはいけない」と意味づけをして、経験により実際にそのような行動が取れるようになったことをもって、「性格が変わった」とするものです。

 

特に後者のような要因は、正確にいうならば、「性格」が「行動」として表出する際に、選択的、自律的にコントロールすることをもって「性格を変えた」とすることを指しています。

 

本当に性格が変わったというよりは、「性格を理解して、取りうる行動が変わった」というのが正しい表現のようにも思いますが、このような考え方に立脚すると、表出した「行動」を評価することで、「性格の評価は可能」だと考えることができます。

 

そして、対象者がもしも後天的に努力して、「性格(から表出する行動)」を変えたのであれば、それを汲み取ってあげるべきだと思います。

 

 

私の結論をまとめると、「性格」を、後天的に変容した点も含めて正しく評価するには、性格から表出する「行動」も含めて評価することが必要だということになります。

 

選考設計の観点からは、評価の対象が「性格特性」か、それとも「行動特性」であるかに関わらず、その評価には(性格テストの結果だけではなく)面接で実際の行動事実を聞き出したり、インターンシップやグループワークなどで行動を観察したりすることが、現在の採用評価には必要だということになります。