002. 企業ウェブサイトにおけるリクルーティング:適合と魅力の認知
研究のポイント
ウェブサイトのユーザビリティは重要である。
ウェブサイトを活用した採用広報についてユーザビリティの視点から検討した論文。かねてから冊子媒体のパンフレット、学校による推薦、ヘッドハンターなど、採用広報のソースについて様々な媒体を対象に研究が行われてきた。近年ICTが普及の活用が進むなかで、採用においてもウェブが活用される事例がごくありふれたものとなっている。こうした背景があって、その研究も随分なされるようになっている。
研究の概要
研究対象は、日本でいうハローワークで実際に求職活動を行っている人々である(学生以外も含まれる:N=120)。ちなみに調査対象者が調査を完了するまでには、およそ45分を要し、完答した調査対象者には10ドルが進呈され、そのうち2名には抽選で50ドルが進呈されるらしい。
この研究では、企業が実際の採用実務で使っているウェブサイトからいくつかを著者たちが選んだうえで、調査対象者に自らの志向に会う企業を選択させ、実際に15分間閲覧してもらった後に質問紙調査を行っている。こうして得られたデータをもとに、「主観的個人-組織適合」がウェブサイトのユーザビリティと企業に感じる魅力をどのように媒介するかについて、統計的な分析(計量分析)が行われている。
分析から明らかになったのは、女性では、ウェブサイトのユーザビリティと主観的個人-環境適合は正の相関関係にあり、主観的個人―環境適合がユーザビリティと企業に感じる魅力を媒介している。その一方で、男性ではそうした関係が見られないことである。こうした傾向について著者達は、デジタル・デバイドの影響はマイノリティに強くみられるからであると述べている。そして、母集団を採用広報により形成するプロセスでは、ウェブデザインがキイとなる要素のひとつであり、とりわけ、コンピュータが得意でない人々(今回の場合は女性)を採用するに当たって重要であることが示唆されている。
ユーザビリティが個人―組織適合を高める理由として、ユーザビリティがよいことで組織の価値観に関する情報を発見しやすくなる可能性や、容易に情報を見つけられることにより、努力が成功に結びつきやすいという認知が得られやすい可能性があげられている。また、個人―組織適合は、多くのポジティブなアウトカムを生むことが既存研究で知られているが、このことから、個人―組織適合が企業に感じる魅力を高めると考えられているようである。
私ならこうしたい
この研究についてまず研究方法が興味深いと思った。架空のウェブサイトを用いて実験的に研究が行われることが多いように思うが、この研究では実際に求職活動を行っている人々に、企業が実務で用いているウェブサイトを利用させている。しかも一つの企業でなく、いくつかのうちから、任意の企業を選ばせることにより、ユーザビリティなどについて、バラツキのある状況をうみだせている。このことは様々な状況を考慮するという点で有益なことであると思う。ひとつの企業のウェブサイトしか用いないとすると、その企業のユーザビリティがとても優れたものであれ、拙いものであれ、その優劣によりバイアスが生まれる可能性があるからである。
ただし、ユーザビリティがよいほうがよろしいという分析結果は、ある意味で当たり前のように思えるので、この分析結果そのものにはさほど関心がわかない。私としてはどちらかというと、情報をどのように提示するべきなのかということに関心がある。ユーザビリティに引きつけて言えば、ウェブというのは通常のパンフレットと異なり、相手の情報探索行動に応じて動的にページの表示を変更できることに利点があると思うのであり、その点について研究してみると実務家にとっても興味深い結果が得られるのではないだろうか。
たとえば多くの人々が過去に閲覧した履歴をもとに情報を関連づけ、自動的に提示できた場合に(たとえばアマゾンのおすすめ機能のようなものである)、そのようなことをすることで、企業に感じる魅力が増すのかを検討すると興味深い結果が得られるかもしれない。あるいはグーグルの広告のように、複数の表示形態を用意しておき、それらをランダムに表示し、応募者の行動と表示された情報との関連について、絶えずコンピュータ側で分析を行い、このことを通じて最適な内容が不断に精選されつづけるといったものも検討する価値が大きいだろう。
この研究では、調査対象者のウェブサイト利用時間が15分であった。各社様々に工夫を凝らして、コンテンツを作成していると考えられるため、15分で全容を把握できるとはおもえない。そのため研究設計上の問題として、学生がどの程度情報を精読できたかという懸念がある。 初見の学生が実際にどの程度の時間、ウェブサイトに滞留して、応募の是非を検討するかということ自体が、興味深い研究課題であるとおもう。これはアンケートで聞くよりも、ウェブサーバに保存されているログなどを活用した方が正確な値が得られるかもしれない。そのようなデータから割り出した時間で、学生達がどの程度の情報をウェブサイトから得ているのかということが想定できれば、ウェブサイトにおける効率よい情報配置を明らかにできる可能性がある。その結果、実務にあたっては、学生は15分ほどしかウェブサイトをみないと想定して最初からウェブサイトを構築するべきであるという含意が得られるかもしれない。
原文
Pfieffelmann, B., Wagner, S. H. & Libkuman, T. [2010] "Recruiting on corporate web sites: Perceptions of fit and attraction." International Journal of Selection and Assessment, 18, 40-47.





